リーダーのあり方:店長時代の思い出

リーダーのあり方:店長時代の思い出

私が、サラリーマンから転身して、個人事業主として様々な仕事にチャレンジし始めた頃、東北のあるデパート最上階の和食、洋食、宴会場、カラオケルーム、4つの店舗の店長をやってくれないかという話しがありました。その頃はまだ30代、チャレンジ精神旺盛だったので、二つ返事で引き受けました。

もともと東京のデパ地下や魚屋で仕事をしたこともあったので、サービス業は得意な方でしたが、責任者(リーダー)としては初めてだったため、大変いい経験になりました。

赴任当時、私より年上の和食の板長と洋食の料理長と面会した時、堅物そうな板長から最初に言われた言葉は、「あ、あなたがお噂の!へへ」でした。

新しい店長が東京から来るということで、自分たちが築いてきたものをガリガリと引っかき回されるのが嫌だったんだと思います。

サービス業はいい勉強になるし、さらにサービス業のリーダーはもっといい勉強になるよ。

私もサービス業はやってきましたが、店長となると話しは別で、当然のことながら従業員やパートの管理、お店のマネジメントまで見なければならず、人件費、材料費、家賃などの数字とのにらめっこと、従業員との対話の毎日でした。もちろん、季節毎のメニューや大家であるデパートとの付き合いなどなど、刺激的で充実した日々を送りました。

経験者はよくご存じだと思いますが、紙ナプキンを使うか、リースタオルにするか、割り箸はどうするかなど、何円単位のコストとの戦いです。

日々の泥臭いエピソードは、枚挙にいとまがありません。その中からいくつか紹介してみます。

ある時は、洋食レストランのホールスタッフ(女の子)同士で喧嘩になり、一番忙しいランチタイムに、そのうちの一人が泣きながらトイレに閉じこもって2時間出てこなかったり、

グラタンが焦げ過ぎたので、ホールスタッフが料理人にもう一度焼き直してくれと頼んだら、料理人が怒ってしまい、怒鳴り散らして帰ってしまったり、

宴会場では、老練のおばさん3人が自分たちの就業時間のバランスと時給の違いでワーワーもめたり、

お客様にお出ししたピザの中に、あり得ないもの(ホイップクリームをデコレートする時の先っちょのプラスティック)がトッピングされて一緒に焼かれてたり、、、

と4店舗同時に見てると、毎日何かしら事件が起こるものです。

ある時はこんなこともありました。

地元でも有名な前科持ちのチンピラがおり、その人は私が赴任する以前もこのレストランで刃物を振り回して出入り禁止になっているにもかかわらず、またやってきたのです。
私がちょうどバックヤードで数字とにらめっこしてた時に、「店長、大変でーす!あいつが来ましたー」ってパートの女の子が血相変えて飛び込んできたのです。
私はホールに飛んでいき、ホールチーフと一緒に体を張って追い返しましたが、次の日に「店長を出せ!」と電話がかかってきたのです。

その人も最初は電話の向こうでガーガー怒鳴ってましたが、静かに話しを聴くだけ聞いてあげると、「店長も大変だなー」とか、「俺も寂しいんだよ」などと言い始めて、最終的には、「ありがとう」で電話を切ったのです。

ホールスタッフと厨房スタッフの信頼関係は絶対でなければならない!よ。

その時の私の心境としては、よほどのことがない限り、同じ人間として根っからの悪人はいないという信念と、もう一つは、スタッフやお客様を守りたいという一心で、誠意をもって話を聞いたということしか覚えていません。

さて、忙しくなってくると、ホール、デシャップ、厨房、洗い場の流れがうまくいかなくなることがあります。
その洋食レストランの場合は、洗い場が鬼門でした。
そのほかはうまく回転しているのに洗い場が詰まってしまい、戻ってくる食器であふれかえって、ホールに影響が出るほどまでになる時がありました。

普段はネクタイ姿でホールに出たり、デシャップで調整したりしている私ですが、洗い場がピンチの時は、ビニールエプロンをかけ、洗い場に入り、がんがん洗いました。
全体を見て流れがよどむところに入り、流れをよくすることによって、従業員もテンポがよくなるし、お客様への配膳もスムーズにいくようになります。

あとになってわかったことですが、そういう姿を見て、料理長や板長をはじめとして、従業員たちの私を見る目が変わっていったようです。

それ以来、板長をはじめ従業員と私の間に厚い信頼関係ができ、業績も大幅アップし、私が任務を終えて久しい今でもその頃の仲間とはいい関係が続いています。

リーダーとして、どんなに従業員たちに、「こうしろ、ああしろ」「・・でなければいけない」と口で教えてもそう簡単には通じませんし、理論理屈を並べ立てても見向きもしてくれません。
特に料理人ともなれば、職人としてのプライドを持って生きてきてますから、言葉だけでは絶対に動きません。

やってみせ 言って聞かせて させて見せ 誉めてやらねば 人は動かじ

この時にいい勉強になったのは、
「人に、もっとこうあって欲しいとか、変わって欲しいと言っても、あるいは心で願っても、そう簡単には変わらない。変わるべきは自分自身だ」ということでした。

元帥海軍大将・連合艦隊司令長官、山本五十六の語録に有名な言葉があります。

やってみせ 言って聞かせて させて見せ 誉めてやらねば 人は動かじ

まさにこれって感じです。


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7 thoughts on “リーダーのあり方:店長時代の思い出

  1. ちょうど、上司やチームの人々との不協和音を感じていたところだったので、うんうん、そうだよね。自分が変わらないといられないんだと思いました。さなじい、さすが!

    1. umejunaさん、コメントありがとうございます。
      昔私も上司や部下、同僚に対して、「こうあって欲しい」「なんでわからないんだ」なんてよく不満を持っていたものですが、自分自身のあり方や、考え方が変わるだけで、組織って変わってくるんだなって実感したことがあります。
      目の前の現実が真実なんですよね。
      それを受け入れた時、はじめて解決策が見えてくるような気がします。

  2. リーダーという立場にありながら 私には欠けているものが あまりにも多いんだなと痛感させられました。
    「一人で何でもやってしまう」のが私の最大の欠点。
    もっと うまくやれるはず!私のあり方を見つめなおしてみます。
    ありがとうございます・・・

    1. yukoさん、コメントありがとうございます。
      実は私も「一人でなんでもやってしまう」タイプでした。
      でも、ある時、思い切って仕事の一部を「委任」してみたんです。
      そしたら、私以上の結果が出てきたり、
      私では到底考えつかないような方法で何かを創り上げたりするのを目の当たりにして、
      考え方が変わりました。信頼関係って、そういうところから生まれ、
      そして育んで行くことで、チームができるんだなって。。

  3. お兄ちゃん^^
    この記事が大好きです!

    私も、同じようにクレーム対応をしていたから^^
    受け入れて欲しいから訴えるんだよね。
    受け入れてもらえなかった傷が深いほど、伝え方が下手になってしまう。
    だから、ほとんどの場合、
    お話を聞いて、そっかー、って分かろうとしたら、相手の態度も変るんだよね^^

    自分が話を聞いてもらいたいように、相手の話も聞いてあげたい。
    お人好し、とか
    きれいごとって言われることもあるけれど、
    クレームのほとんどが、クレームじゃなくなるね。

    太陽と北風さんのおはなしと同じだと思うの。

    相手の話を聞くことは、自分が折れることじゃないもの。
    相手を理解するから、自分も理解されるんだよね^^

    あとね、忙しいときや大変なとき
    職種や役割、上下関係の枠をこえて協力するのも大切なことだよね。
    自分から動くと、相手も他の人にそうしたいと思う。
    うれしかったことは、伝染するの。

    Give and Take っていうけど、
    契約とかそういうのでなければ、
    Give Give Give で十分だと思ってる。
    だって、求めなくても自然にTake されるから。

    だけど、相手にTakeしてもらうことも大切にしたい。
    自分が役に立つんだっていう体験は、とてもうれしいことだから、
    全部やってしまわないように。

    そういうことを考えながら、お仕事しています。
    お兄ちゃんが私の上司だったらいいのにな。
    とても楽しく、良い思いをもって働けると思うの。
    お兄ちゃんと同じ職場の人は、しあわせね^^

    この前のお兄ちゃんの夢も、こうして広がっていくんだね^^

    1. ことりちゃん、おはようございます。

      レストランの店長時代はほんの一年の任務期間だったけど、毎日毎日が泥臭く、しかもドラマティックで、面白くも、いい経験になった一年間でした。

      特にクレーム対応は、ことりちゃんがいうように、一旦すべてを受け入れてあげるとそれまでの態度がガラって変わるのがわかるよね。
      これは、ノウハウもあるとは思うけど、やはりその人を思いやる人格が大切だと思う。

      Give Give Giveの話、まさにその通りって思うよ。
      「これだけやってあげたんだから、これくらいはちょうだいね」的な下心があると、もうすでに偽善的になってしまって、誠意は伝わらないと思う。

      以前どこかで、「愛は与えて忘れなさい」という言葉を読んだことがあるけど、その言葉を思い出したよ。
      生まれてきたわが子の一切すべてを受け入れる親のような心情、まさに見返りを求めない愛がほとんどすべての問題を解決していってくれるような気がします。

      医療現場のクレーム対応って、生命に直接関わってくるから、緊張感があると思う。
      そんな中その境地まで行くにはそう簡単な話じゃないけど、それを若いことりちゃんは実践しているのだから、尊敬してしまいます。

      いつも、深くて、愛情こもったコメント、ありがとう!

  4. おにいちゃん^^

    私はいつも自分で答えを出しているんじゃないんだなって思ったよ。
    職場で何かに対応するときも、必ず患者さんやスタッフが助けてくれる。
    だから、ひとりで考えるよりもいい答えが見つかるんだと思う。
    それが見つかるまでには、いろいろあって、
    いろんな感情が渦を巻く時もあるけれど、
    考える力をくれるのだから、感謝することばかりだよ。

    お兄ちゃんからも、たくさん力をもらっています。
    ありがと^^

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